日本家屋
正面玄関に接続した書院造の日本家屋は、東京都下からそっくり移築されたものです。和室の床に敷かれている畳は、ほぼひとりの人間が横になれる大きさが基準で、この畳の寸法の人間的な比例が単位として、建物の全域に行き渡り、それに独自の統一性を付与しています。
和室を構成する障子や襖も、畳のサイズにそろえられ、梁や天井などにも反映されています。スライド式に開閉できる障子や襖は、場合によっては取り外すこともでき、それぞれの部屋と廊下、また庭との関係に、独特のひろがりが生まれます。畳や床の間は、ヨーロッパの敷物や家具のように、あとから部屋に備えられるものではなく、はじめからそれぞれの部屋に備え付けられていることが大きな特徴です。日本家屋では、構造と装飾はけっして別々に存在するのではなく、相伴う関係になっています。建築の際にも、空箱のような空間ができて、それをあとから埋めるというのではなく、部屋は最初から「満たされた空間」なのです。床脇に接して文房具類を置く低い棚を一般に書院と言いますが、外側に一段張り出したものを付書院と言います。付書院は、書斎に造り付けられた机である出文机から発展したもので、書見や執筆のためのものでしたが、文房具類を置く棚として座敷飾り化しました。そして、床・違い棚・書院の備わった座敷も「書院」とよばれるようになり、さらには、このような座敷のある建物も書院の名で総称されるようになりました。
日本家屋の一部が茶事専用の施設である茶室になっています。茶室は、簡素な雰囲気をかもし出さなければなりません。茶を味わうものの出会いにおいては、日常の社会で通用している境界や壁はとり払われます。それは過去と未来についての心配や苦難が一時その重みを失い、今ここにあるもの、たとえば掛け軸や茶碗や花についての親しみ深い会話が交わされる瞬間です。客が露地と呼ばれる庭から茶室に入る際の入口が「躙口(にじりぐち)」です。躙口は高さも幅も二尺(約60cm)余りの小さな口で、客は踏石の上にかがみ、敷居に手をつかえ一礼して茶室に躙り入るのです。四畳半の狭い茶室も、躙口を隔てると大きな空間に見えます。茶室には、茶事用に一尺四寸(約42cm)四方の炉が切られています。茶事準備をする水屋には、すのこをひいた流しの上に棚をしつらえた水屋棚が設けられ、必要な諸道具を並べることができます。
日本家屋に面した小庭園には、曲玉の形の小さな池を囲んで日本の潅木が植え込まれ、春には、色とりどりの花が咲きほこって、心をなぐさめてくれます。西洋の庭園の左右対称の幾何学式の特徴は、日本の庭園には見られません。日本の庭園造形は、周囲の自然風景の中から、池、滝、川、丘などの特徴ある部分を選び出して再現・構成したものなのです。